神秘的?“工場萌え”ブーム

神秘的?“工場萌え”ブーム 造形美に魅力
かつて公害を生み出し、環境汚染の元凶とされた工場地帯が「アート」として見直されている。工場地帯の写真集が人気を集めているほか、町おこしとして工場鑑賞ツアーの企画も。“工場萌(も)え”と呼ばれるブームの背景について、専門家は「ブログで工場の造形美が紹介され、疎遠だった工場が神秘なものとして受け入れられている」と分析する。

 炎を吹き出す煙突や複雑に入り組んだパイプ。照明を浴び、闇夜に輝く巨大クレーン…。夜のとばりが下りるころ、阪神高速湾岸線を車で走る。車窓の向こうに広がる景色はSF映画のワンシーンのようだ。

 「秘密基地みたいでしょ。大きなタンクや、うねうねと曲がったダクトを見ると『かっちょええな』と、思うんです」
 よく車で工場を見に来るという京都市の女性(39)は「工場鑑賞」の魅力をこう話す。

 東京書籍が3月に出版した「工場萌(も)え」は、そんな「工場鑑賞」が趣味のイラストレーター、石井哲さん(40)がブログで紹介してきた写真をまとめた写真集だ。これまでに3万部を販売するヒットとなった。8月にはグラフィック社が写真集「背景ビジュアル資料 工場地帯・コンビナート」を出版。初版8000部は順調な売れ行きをみせ、増版も予定されている。

 「背景ビジュアル資料」の著者で、カメラマンのかさこさん(32)は「工場には普通の建築物にはない近未来的な造形美がある。オブジェのように、わざと変な形になっているのではなく、工場が機能するためにユニークな形をしているという点が美しい」と説明する。

 阪神工業地帯の一角を占める兵庫県尼崎市では、「工場鑑賞」を町おこしに活用している。

 尼崎公害訴訟の和解金で設立された市民グループ「尼崎南部再生研究室」は平成16年から工場地帯の景観を楽しむ運河クルージングを始めている。年2回の開催で、小さな漁船で1時間かけて工場地帯をめぐる。参加費は1500円だが、参加者を募集すると、予約が殺到する人気ぶりだ。

 クルージングのガイドを務める綱本武雄さん(31)は「これまで公害などの環境悪化ばかりが強調されてきたが、尼崎には日本で初めて板ガラスやチタンの工業製品化に成功した工場もある。日本の産業を支えてきた街の歴史や、ものづくりの素晴らしさを伝えられたら」と意気込む。

 京葉工業地帯を抱える千葉県でも「迫力のある工場の外観を楽しみながら、工場の環境対策などについて理解を深めてもらいたい」(県観光課)として、近く「工場鑑賞ツアー」を計画している。

 こうした「工場鑑賞」ブームについて、近畿大学理工学部社会環境工学科の岡田昌彰准教授は「公害が顕在化した1970年代に、工業地帯の緑地化が進み、工場は市民から目隠しされてきた。市民にとって疎遠になった工場が、ユニークで迫力がある景観としてブログなどで紹介されるようになったことが大きい」と分析する。

 ただ、鑑賞される側の工場からは戸惑いの声も上がっている。写真集などで大阪の有名な「鑑賞スポット」と紹介されている製鋼会社の担当者は「ふだん見慣れている者にとっては当たり前の景色。興味を持たれるのは不思議な気がする」と話している。


夢 / SOPHIA



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